アナウンスを楽しむ

バリアフリー観察記2002年

アナウンスを楽しむ

「急病人のお客様が降車中のため、しばらくお待ちください」
 通勤電車の車内に、落ち着いた声のアナウンスが流れた。しばらくして、再び車内放送。
「お待たせいたしました。間もなく発車いたします」
 その日は、仕事帰りにも電車の発車が遅れた。案の定、ホームのスピーカーからは業務放送が流れてきた。
「4号車、車いす乗車中」

 いつもなら気にもならないようなことが、このときはいつになく耳に付いた。急病人が出たときに「急病降車中」なんて言ったらまるで病気が降車しているみたいだけれど、電車に乗ろうとしているのは人なのか車いすなのか……。業務連絡だから駅員さん同士で通じればいいということなのかもしれない。でも「車いす乗車中」などとホーム全体に響きわたるアナウンスには、どうも違和感を感じてしまう。

 車いす使用者の乗降について、業務放送の内容は駅によってまちまちだ。「車いす乗車中」は結構メジャーだけれど、視点を人に向けて「車いすのお客様乗車中」というのもよく聞くようになった。つい最近は「お客様乗車中」というのもあった。乗車に手間取っている人が車いす使用者であるのか視覚障害者であるのか、高齢者であるのかといったことは、出発が遅れている理由を説明する際にはそれほど重要ではないと教えられて、とてもスマートに聞こえた。

 車いすを使ったことがない私などにしてみれば、車いすは自転車や荷物と同じように思いがちだ。でも、車いすは気分次第で乗ったり乗らなかったりするものではなく、それがなければ生活自体が成り立たないもの、その人の脚そのものだ。自転車には防犯用のカギが付いているのに、車いすにはそれが付いていないほど体の一部、その人そのものなわけだ。これは、盲導犬や聴導犬、介助犬も同じだ。

 車いす使用者の乗車一つをとっても駅によってアナウンスの内容が違うことからすると、放送の文言に厳密なマニュアルや約束事があるわけではなさそうだ。それだけに、ホームや車内にアナウンスが流れるたびに、マイクを握っている駅員さんの心の中がのぞけるようで、結構面白い。

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Last Update : 2003/02/24