未来へのトビラ

バリアフリー観察記2002年

未来へのトビラ

 携帯電話より、PHSのほうが好きだ。携帯電話は市内にかけるときでも市外局番が必要だけれど、PHSは普通の電話と同じで、市外局番はいらないのがいい。出張先でタクシーを呼ぶために、市役所の公衆電話などに張られているタクシー会社の電話番号を控えておくことがある。ところが、ほとんどの場合は市外局番が省略されていて、携帯電話ならば事務所の人に確認しなくては使えない。

 雑誌の編集をしていると、日常的にデザイナーとやり取りをする。彼らはどうしたら企画の趣旨が一番伝わるか、楽しい雰囲気になるか、興味を持ってもらえるか、見やすくなるかといったことを考えながら、写真やイラスト、図表や文字を配置したり、文字のサイズや色を決めていく。頭の中では、読者のことを一番に意識しながら仕事をしているわけだ。
 その様子を見ていると、デザインという仕事は、自分が何を表現したいかということ以上に、それを手にする人を意識しながら行われていることを実感する。と同時に、不特定多数の人が見ることを意識したデザイナー的な感覚は、だれにとっても必要なものだと思えてくる。

 近所の銀行に行くと、カウンターの前に立て看板が置かれていた。
「公共料金、市税の口座振替お勧め中。よろしくおねがいします」
 筆で書かれていたのだけれど、パッと見ただけでは、スムーズに読むことができなかった。実は、とても達筆な行書だった。おそらく、この銀行に勤める書道の達人の作品!? だ。美しい文字であることは理解できても、やはり、読みやすくなければ立て看板の意味がない。美しい文字は乱暴な文字の対極にあるものの「読みにくさ」という点では窓口の作品もいい勝負。窓口やATMの「お引き出し」「お振り込み」といった表示が行書で書かれている銀行を想像しながら、思わず笑ってしまった。

 いただいた名刺を一枚一枚整理していると、読みやすいものと読みにくいものがあることに気付く。読みにくいものは、圧倒的に縦書きタイプに多い。
 名刺には会社の郵便番号や所在地、電話やファクシミリの番号といったたくさんの数字が並ぶけれど、縦書きタイプには、それらが漢数字で書かれているものが多い。電話をかけようとしても、頭の中で算用数字に置き換えるためか、どうも直感的にダイヤルすることができない。〇三‐三三二三……なんていう横棒だけの数字が縦に並ぶと、見にくさに拍車がかかる。しかも、これでは外国人が電話をかけることができない。

 点字付きの名刺をいただいたことがある。共用品を推進している団体の方のものだけあって、バリアフリー名刺の見本のようなものだ。ここまで完ぺきなものを目指そうと思うと大変だけれど、ものごとは「100か0か」ではない。

 今日という日が常に未来への入り口だと考えたら、まずは「今よりはバリアフリー」になればよし、と、背伸びをせずに考えたいと思う。

トップへLink

Last Update : 2003/02/24