邦画と洋画のバリアフリー対決

バリアフリー観察記2002年

邦画と洋画のバリアフリー対決

 テレビ番組の字幕を義務付ける法案が提出された――こんなニュースが小さく伝えられたのは2001年の秋だった。民主党が一般公募したアイデアの中から採用したものだった。テレビ字幕の普及率はアメリカ3大ネットワークの番組で約90パーセント、イギリスBBCの番組で約50パーセントなのに対して、日本ではNHKが約18パーセント、民放が約3パーセント。法案の内容は、2007年までにアメリカ並みの普及を目指そうというものだった。

 画面に映し出される文字の影響力を、私自身も体験することがある。大型の電機店に行くと、棚の上にテレビが何台も並べられている。どれもボリュームはゼロになっているけれど「スクープ! ○○と○○の熱愛発覚!」なんて文字が大映しになると、思わず立ち止まってしまう。文字のインパクトは、やはり絶大だ。

 レンタルビデオは、いまや映画鑑賞の主役になっている。寝ころびながら観ることができる気楽さから、休日には結構利用している。耳が不自由な人にもレンタルビデオ愛好者が多いという。音が聞こえないのになぜ? と意外に思ったが、洋画には字幕が付いているからと聞いて納得した。
 ところが、邦画ではこうはいかない。字幕がない日本映画を音なしで理解するのは、字幕なしの洋画を理解するのと同じくらいに困難だ。「ターミネーター」や「ランボー」といったアクションものなら何とかなりそうだけど、カンヌ映画祭で最優秀作品賞を受けた「うなぎ」や、日本アカデミー賞を総なめにした「鉄動員(ぽっぽや)」を理解する自信はない。

 レンタルビデオは邦画より洋画の利用者が圧倒的に多いものの、最近では、北野武さんの作品や宮崎駿さんのアニメなど、邦画にも人気が高い作品が出てきている。「もののけ姫」の字幕付きを求めている人は結構いるだろうし「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」の字幕のニーズも相当なものだろう。
「テレビ番組や邦画に字幕を」という要望は「聴覚障害者や高齢者のために」といったアプローチだけでは、普及までには時間がかかりそうだ。でも、だれにとっても便利で、それが聞こえない人のニーズにも合致していることが説明できれば、実現までのスピードは加速するかもしれない。

 例えば、洋画の字幕は、英語を理解できない自分と耳が不自由な人にとって共通の便利。私と耳が聞こえない人が一緒に同じ映画を楽しむことができるわけだ。さらに外国人が一緒でもOK。そんな三人が同じ画面を観ながら時間を共有している光景は、何と温かい雰囲気だろう。高齢者の多い病院では「寅さん」のビデオを流しているときがあるけれど、これだって、字幕があれば聞こえにくくなった人も楽しめそうだ。
 また、病院や役所の待合室などに置かれているテレビは、場所柄、音量を下げていることがほとんど。こんなときに字幕があれば、ドラマやニュースの内容を正確に理解することができるようになる。ゲームセンターやパチンコ店のように周囲の雑音が大きいところでも、字幕付きなら画面だけでも十分に内容が伝わるだろう。

 テレビ番組や邦画の字幕だけでなく、あらゆることをこんな風に考えることができたなら、日本のバリアフリー化は、今よりスピードを上げることができるに違いない。

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Last Update : 2003/02/24