ファミレスの便利と不便

バリアフリー観察記2002年

ファミレスの便利と不便

 オーストラリア人とシーフード・レストランに行ったときの出来事。メニューの「エビドリア」の文字を指さして「これは何?」と尋ねられた。とっさにはエビという単語が浮かんでこなくて「ベビーロブスターのミートがオン・ザ・ドリアなんだよ」と両手をチョキチョキとさせながらやっとの思いで説明した。すると彼は「それはうまそうだ」と、喜んで注文。ところが、テーブルに運ばれてきたドリアには小指の先ほどの蒸した小エビが載っているだけで「これが“ベビー”ロブスターか…」と笑われてしまった。

 あのときのオーストラリア人と同じような経験がある。知人と洋風レストランに行ったとき、メニューに並んでいる名前がそれはそれは長くて困ってしまった。「クルミのチップでスモークしたシャラン産鴨胸肉と白レバーのムースリーヌ オレンジコンフィーのオイル コリアンダー風味」なんていうのもあって、まるで、サスペンスドラマの「雪国温泉美女殺人紀行。湯煙に消えた女の…」に近い感覚。文字は読めても、どんな料理が出てくるのか、まったくイメージがわいてこなかった。

 食堂の店頭には、ラーメンや五目中華などのロウ細工の食品サンプルを並べているところがある。本物と見間違うほどの完成度の高さはもちろんのこと、見ただけでどんなものが出てくるかを伝える究極のアイデアだ。これは、日本独自のものらしいけれど、外国人観光客にも評判がいいと聞いて「それはそうだろう」と納得した。

 注文のしやすいメニューで他を圧倒しているのは、ファミリーレストランだ。どの店に入っても大きな写真付きのメニューが一人ひとりに手渡され、名前を見なくても実際に出てくるものがすぐに分かる。「ハンバーグ」一つをとっても、どのくらいの大きさか、彩りはどうか、ジャガイモやニンジンなどの野菜が添えられているかといったことまで一目瞭然。「イメージしていたものと違う」といったことがない。これなら、小さな子どもも希望どおりのものを注文することができるし、外国人も注文に窮することがない。

 だが、そんなファミレスにも不便がないわけではない。座席数も多くて学生時代には仲間同士10人ぐらいでよく昼食を食べに出かけたけれど、そんなときには決まって一苦労がある。
 Aランチ、Bランチ、Cランチ……と一通り注文をし終えると「ご注文を確認させていただきます」と前置きして、Aランチがお二つ、Bランチが三つ、Cランチがお一つ。ランチはパンがお二つでライスが四つ。カニチャーハンと酢豚のセットがお一つ……と復唱が始まる。仕舞いには、ホットコーヒーが食前に一つ、食後に二つ、アイスコーヒーが四つ、アイスティーが三つ、以上でよろしいですか?」と問いかけてくる。でも、10人分のオーダーなんて、なかなか覚え切れるものではない。

 この光景は、結婚式の親族紹介に似ている。「こちらは新郎の父の○○です、母の○○です、長女の○○です」くらいなら何とかなるが「父の弟の……、妹の……、妹の長男の……」となると相当に怪しくなり始め「そしてこちらは新婦の……」なんてころにはもう愛想笑いで精いっぱいだ。お決まりの光景ではあるけれど、名前も顔も覚えることができない。
 結局ファミレスでの注文確認は、小学校の授業中のように挙手をして、頭数を数えることになったりする。

 こんなときはいつも、テーブルごとにカーボン複写のオーダー用紙があればいいのに、と思ってしまう。自分で書いた注文内容が手もとに残るし、店の人も無益な復唱をくり返さなくてもよくなる。データを入力する携帯端末を使っているところもあるけれど、メニューにバーコードを付けてペンでなぞるタイプの端末が各テーブルにあれば、注文はさらにスムーズになりそうだ。

 耳が不自由な人には言葉も不自由な人が結構いて、注文の際に伝えたはずのものと出てくるものが違っている、という経験を少なからずしている。でも、自分でオーダー用紙に記入したり、注文を端末に入力したりする方法なら、そういった間違いは起こらなくなるし、注文ミスをしてしまったら、自分の間違いなのだからと、納得もできる。もちろん、手が不自由な人など、希望者に対しては、これまでのように聞き取りをすればいいわけだ。
 もう何年も足を運んでいないけれど、その後、ファミレスはどんな風に進化しているかな。

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Last Update : 2003/02/24