ドライブスルー投票の現実味

バリアフリー観察記2002年

ドライブスルー投票の現実味

 高齢者は社会の多数派としての地位を確固たるものにしようとしているものの、まさに時代の中心にいるはずの彼らの声は、行政には直接は反映されにくいのが現状だ。議員を選ぶ選挙には、いくつかのバリアがあるのだ。
 投票場までの距離が遠くて行くことが難しいという人のほか、足が不自由だったり寝たきりだったりして、投票所に行くこと自体が困難という場合もある。行政の施策によって生活が直接的に左右される人たちの中には、その一票を投じられない人たちが必ずいるわけだ。
 郵便投票の制度もあるけれど、移動が極度に困難なごくごく一部の人に認められているだけで、寝たきりの高齢者はこの対象から除外されている。公平、公正が第一の選挙では「本人確認」がとても重要で、本人が投票所に出向いて直接投票するのが原則。郵便投票制度はあくまでも特例中の特例としての扱いだ。

 あるとき、信号待ちをしながらマクドナルドで商品を買っているお客さんを眺めていた。壁に張られたメニューから商品を選んで次々と注文している。専用のカウンターに車を横付けし、商品の受け渡しも支払いも車に乗ったまま。そう、ドライブスルーだ。そういえば、車いすに乗っている人の中にも自らハンドルを握ってハンバーガーを買っている人がいる。そもそも、このシステムに足が不自由かそうでないかなんてまったく関係がない。
 ならば、これを投票に応用することはできないものか。選挙当日は投票者が集中してしまうけれど、不在者投票なら公示日から投票前日までに約2週間あり、投票が集中することはない。
 難病、重病で歩くことができない人の中にも郵便投票の対象から外れている人が多いけれど、こうした人たちも家族や介助者の運転によって投票所までは行くことができるようになる。末期ガンの患者が「最後の一票」を投じることだってできるようになる。
 候補者名に触れるだけで完了する電子投票が試験的に採用されたりしているけれど、ドライブスルーが併用されれば、投票のバリアフリー化は一気に進むことになる。

 投票所の設置については、投票用紙がすり替えられたり、投票内容が他人に見られたりしない場所を設置することが、各自治体の選挙管理委員会に義務付けられているけれど、総務省によれば、これらの条件を満たすことができれば、ドライブスルー投票も「検討が可能」ということだった。
 自宅のパソコンを使ってインターネットを通じて投票できる仕組みが検討されてはいるものの、どうやって本人確認をするか、投票用紙が残らないためにトラブルが起こったらどう対応するのかといった課題が残っていて、実現にはまだ時間がかかりそうだ。でも、バリアフリーな投票場の設置については選挙管理委員会のアイデアと工夫によって、すぐにでも実現できる。

「都立高校の先生たちが予備校で教え方を見学した」といったニュースを聞くと、どの世界でも民間レベルのサービスが求められる時代なのだと実感する。と同時に「選挙管理委員会の職員がファーストフード店でドライブスルーの実地研修を行いました」なんてニュースが聞かれる日も、そう遠くはないような気がしてくる。
 投票場に出向いた際の第一声が「いらっしゃいませ、こんにちは」となれば、選挙のイメージも一変しそうだ。ポテトを勧める要領で特定の政党や候補者を勧められても困るけれど、投票のしやすさを最大限に追究するサービス精神を取り入れることは大歓迎だ。

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Last Update : 2003/02/24