バリアフリー社会とコンセント

バリアフリー観察記2002年

バリアフリー社会とコンセント

 渋谷や新宿のコンビニの前で夜を明かしたり、朝までカラオケボックスで歌ったりする女子中高生の生態がテレビ番組で紹介されていた。彼女たちはみな「ただいま家出中」。とはいっても、週末の2〜3日だけ友人の家を泊まり歩いたり、夏休みなどに数週間家に帰らないという、通称「プチ家出」なのだそうだ。

 電話がコードから解き放たれたことで、最初の呼びかけは「もしもし」から「今どこ?」に変わった。ダイヤルすれば本人に直接つながり、いつでも消息がつかめるという安心感は、彼女たちの親だけでなく家出をする側にもありそうだ。
 そのためか、プチ家出少女たちは携帯電話のバッテリー切れにはとても神経質だ。あるときは店の看板、あるときは自動販売機と、屋外にあるあらゆるコンセントを引き抜いては充電を試みる。もちろん、店側がそんなことをいつまでも見過ごすはずもなく、彼女たちはわずかな水や牧草を求めて移動する遊牧民族のように電源の確保に奔走する。

 携帯パソコンが増えたことで、いつでもどこでもパソコンを開いたりインターネットに接続したりできるように、街で電源を求める人たちが増えている。「各テーブル電源付き!」なんて喫茶店があれば、相当に繁盛しそうな勢いだ。電車や飛行機のほか、船や自動車にもコンセントを付けてほしいという要望が増えているというから、電源の提供は今後、新たなお客さんを引き付ける主要なサービスの一つになりそうだ。

 足が不自由な人たちは、外出時に電動車いすを使っている。最高時速は6キロ程度、走行距離は1回の充電で20キロ前後。20キロというと結構な距離に思えるけれど、行って帰ってくることを考えると最長でも片道10キロ、バッテリー切れを気にすればせいぜい片道8キロぐらいしか移動できないことになる。祖母は膝を悪くしてから電動ミニバイクを使うようになったけれど、こちらも電動車いすと同じで遠出はできない。
 バッテリーは自宅のコンセントを使って7〜8時間程度で充電できるものの、ひとたび家を出たら、ガソリンスタンドで給油できる自動車とは違って充電するところはない。バッテリー切れで止まってしまえば押して帰ることなどできず、まして歩いて帰ることもできないのでやっかいだ。
 電動の車いすやミニバイクを使う人たちは、ガソリンスタンドのない砂漠を車で移動するのと同じ不安をかかえながら日々、街を利用していることになる。

 環境に優しい電気自動車の開発が進められているけれど、めでたく完成すれば、街のガソリンスタンドは高速で充電できる設備を備えるようになるだろう。そうなれば、電動車いすを使っている人も祖母も、今より安心して遠くに出かけることができるようになりそうだ。

 街の中に電源を求める感覚は、車いすで利用できるトイレや段差のない歩道を求める人たちの気持ちに似ている。もしかすると、携帯電話やパソコンを使いこなす若い人たちの多くが、街のバリアフリー化を推進するためのよき理解者になれる立場にいるのかもしれない。そう考えたら余計に、プチ家出少女たちが不夜城で危険な目に遭いませんようにと、無事を祈らずにはいられない。

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Last Update : 2003/02/24