見えているのに見えない値段

バリアフリー観察記2003年以降

見えているのに見えない値段

 50グラム入りで368円の伊勢ひじきと40グラムで315円の房州ひじきは、一体どちらが安いんだろう。味や品質は商品ごとに違うはずだし、親戚の地元であればひいきもある。だが、普段から何気なく食しているひじきに、これといった産地のこだわりはない。
 そんなとき、買い物カゴに入れるかどうかの判断のよりどころは、やはり価格だ。ところが、10グラムの差で53円という違いを元に値段を比較するのは、それほど容易なことではない。しかも、夕食の買い出しとなれば、渡された買い物リストに並ぶ商品は一つではない。

 麺つゆの値段比べは、ひじきよりさらに複雑。水で薄める割合が1:1のストレートタイプもあれば、1:5の濃縮タイプもある。その上、内容量が微妙に違っている。340ミリリットル入りの2倍に薄めて使うタイプと360ミリリットル入りで5倍に薄めて使うタイプが並んでいれば、買い物リストを手に、ただぼう然と、立ち尽くすのみである。専業主婦の人たちは、日々、これほど複雑な計算をこなしているのだろうか。

 ボックス入りのティッシュペーパーは、安売りを印象づける定番アイテムだ。5箱入りで298円というのをよく見かけるが、店頭の一番目立つところに“特価247円!!”などとポップを立てて陳列しているのを見つけたりすると、心がググッと引き寄せられてしまう。
 ところが、である。
 ティッシュペーパーには中身の枚数にいくつかの種類がある。400枚(200組)入りか300枚(150組)入りが一般的だが、360枚(180組)入りというのもある。底を見れば枚数が表示されているが、箱のサイズはどれも同じで、一見しただけでは分からない。そもそも、枚数に違いがあることなど、少し前までは知りもしなかった。
 400枚入りを298円で売っている店が、“特価247円!!”で300枚入りを販売していれば、以前なら、間違いなく飛びついた。本来であれば、223・5円でやっと、400枚入り298円と同じなのに。

 100グラム当たりの値段が表示されている豚肉や鶏肉をひょいひょいっとカゴに入れながら、ひじきなら100グラム当たり、麺つゆなら希釈後100ミリリットル当たり、ティッシュペーパーなら100枚当たりの値段が表示されていれば分かりやすいのに、と思ったりした。

 オープン価格制が広がって、商品のパッケージやカタログから値段が消えた。先日、子どもの練習用キーボードのカタログを集めてきたときのこと。目ぼしいメーカーのものを一通りそろえて、じっくりと見比べ始めた。商品の機能や特徴が写真や図とともに細かく紹介されていて、魅力的な商品をすぐに見つけることができた。
 ところが、いざ値段はと見ると、価格の項目はどれも「オープン価格」のオンパレード。これでは違うメーカーとの比較ができないだけでなく、同じメーカーのものでもグレードによる値段の違いを知ることができない。せっかく欲しい商品が決まっても、それが手が届く値段なのかがわからないのは残念だったが、それ以前に、購入を決断するための最終的な判断材料を提供できないカタログを、なんとも可哀想に感じてしまった。自分がカタログだったなら、存在意義を疑って自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。

「見えない人は一つ一つの値段を把握できずに大変だ」
 いくつもの商品が並ぶスーパーの陳列棚を前にしたとき、ふとそう思ったことがある。だが意外にも、そんな自分にも見えていない値段があった。

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Last Update : 2004/11/30