充電器で考えるバリアフリーの正体

バリアフリー観察記2003年以降

充電器で考えるバリアフリーの正体

 会社で机に向かったものの、パソコンのバッテリーの残量が見る見る減っていく。ACアダプターを、自宅に忘れたのだ。デスクではパソコン2台を使っているが、機種が違うとパソコンへの差し込み口の形が微妙に違っていて、使い回しがきかない。結局その日は、わずか2時間で史上初の“バッテリー切れによる早退”となった。

 電話、音楽プレーヤー、テレビ…。据置タイプだったものがどんどん携帯型になっている。それを歓迎しながらも、どうにも閉口してしまうこともある。我が家のコンセント不足に、拍車がかかっているのだ。
 パソコンを買ってきたその日以来、我が家のコンセントの数はただでさえ不足気味だった。そこへ、携帯電話や携帯ラジオ、デジタルカメラやデジタルビデオカメラのバッテリー充電器が加わった。しかも携帯電話やデジカメの充電器は、同じメーカーのものでも機種が違えば共有することもできない。テレビやビデオ、電話、冷蔵庫やエアコンのコンセントを抜くことなどできるはずはなく、結局、携帯電話は、会社のデスクで充電することになっている。

 今度デジタルカメラを買うときは「単三電池を使用するタイプのものにする」と決めている。電池ならばどこでもすぐに手に入るし、海外に出かけるときでもコンセントの電圧やプラグの形状を気にする必要もない。そもそも、本体よりもかさばる充電器を持ち歩く必要がないからだ。

 コンビニのディスプレーには、市販の電池を使って携帯電話を使えるようにする商品がズラリと並んでいる。その販売スペースを見ると、すでに規格化されている電池を使用するタイプの携帯電話へのニーズはかなり高そうだ。待ちあわせ中に、出張先で、旅行先で……。あと1回分の電力があれば事足りるのにと、気をもんだり冷や汗を流したりしているバッテリー難民は、世界中にいるのだろう。

 そんな思いから、メーカーにメールを送ってみた。
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ご担当者 さま

一つ教えて下さい。
携帯電話やデジタルカメラ、ビデオカメラのバッテリーの形に関心があります。
メーカーが同じでも機種ごとにバッテリーの形が違っていて、
それぞれ専用の充電器でしか充電できません。
我が家でも御社の製品を含めていくつかの製品を使用しており、
引き出しの中には7種類の充電器が入っています。

バッテリーの形は、電池のように、業界として統一した規格にすることは難しいのでしょうか。
もしくは、バッテリーの形は違っていても、同じ充電器で充電できるようにすることは難しいのでしょうか。

とても関心があります。
ぜひ、教えてください。
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 回答のポイントはどのメーカーもほぼ共通していて「限られた容量の中に最先端技術を詰め込む工夫を各社がしているため、充電池やバッテリーやの形状や性能もメーカーごとに工夫している」「ACアダプターや充電器も製品の仕様・性能に合わせて作るため、必然的にバッテリーの種類ごとに違ったものになる」「自社製品を使い続けてもらうためには、他社製品を使用できないようにする必要がある」といった内容に集約された。

 予想通りではあった。だが、数週間後に1本のニュースが流れた。携帯事業者や機器メーカーの業界団体が協力して、2010年をめどに充電器の規格を統一する方針を決めた、というのだ(Link)。それを見たとき「技術的な面からいえば充電器などの共通化は実現可能ですが、デザインの自由度などから商品化は難しいようです」という回答メールの一文を思い出した。今は“Yes”とは言えないが“No”ではありませんよ――この人は、きっとそう言いたいに違いない、と感じていた。

 バリアフリーは、メーカー側の向上心だけではなかなか実現しないような気がする。不便を感じている側からの信頼感があって、その向上心がより高いレベルで具体的な形になるのではないか。
 充電器の規格統一ぐらい、もっと早くに実現してほしかったという思いはある。でも、どんな業界にもそれぞれの事情というものはある。そのなかで、日本企業の英断で世界中の人たちに共通している不便がまた一つ解消されるのだと考えたら、感じ方も違ってくる。

 携帯型機器の電力は自動車にとってのガソリンと同じで、どこでも手に入らなければ意味がないことを考えればバッテリータイプより電池のほうが便利だと思う。パソコン用のACアダプターも機種やメーカーを問わずに統一してほしい。デジカメの記録用メディアの種類((Link))も、いずれは統一してほしい。
 電気製品で不便を感じていることはいくつもある。でも、世界一の技術力を持つ日本の技術者が、電気製品のこんな初歩的な不便さを“よし”としているはずはない――そういう信頼感が、今の僕には以前よりも強くある。

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Last Update : 2006/08/26