割引の理由

バリアフリー観察記2003年

割引の理由

 仮面ライダーショーや戦隊ヒーローショーの会場は、いつでも立ち見が出るほど満席だ。遊園地の開園前に到着したにもかかわらず、すでに100メートル以上もの行列ができている。やっとの思いで場内に案内されると、入り口ではヒーローが子どもたちを出迎え、握手、握手、握手。目を輝かせる息子たちの様子を見ながら、苦労して連れてきてよかった、としみじみ思ったりする。
 
 あっという間に超満員になり、子どもたちの熱気に充ちた会場をグルリと見渡しながら、何とも不思議な感覚を覚えた。席を埋めている子どもと大人の数が、ほぼ同じなのだ。ほとんどが親子連れなのがその理由。中には、両親が子ども一人を、という家族もいる。

 キャラクターショーや怪獣ショーの入場料は、なぜ、大人のほうが子どもより高いんだろう。以前に出かけた仮面ライダーショーにしても、大人1500円、小人800円といった具合。ショーを見たいのは子どもたちで、付き添いである大人が倍もの料金を払わなければならないのが何とも理不尽だ。
 JRでは、障害者が介護者と一緒に電車を利用する際には、本人と介護者2人分の運賃が5割引。また、全国の映画館では、通常は大人1800円のところ、障害者と同伴者は各1000円で映画を見ることができる。
 さらに映画には、大人一人と小人一人で2000円という「親子ペア券」というのがある。映画館の入場料は大人1800円、小人1000円と相場は決まっているが、これなら、子どもの付き添いでアンパンマンやポケモンを見ることになっても納得できる。なぜなら、障害当事者と付き添い、といったことと同じ配慮だと感じるからだ。

 携帯電話の基本料金、有料道路の通行料金、公共交通機関の運賃、NHK放送受信料、各種入場料……。障害者に対する割引サービスには、いろいろなものがある。だが、気になるのは割引の理由がはっきりしないものがあることだ。携帯電話の割引は各社が行っているものの、ある会社の割引理由は「障害者の方々のコミュニケーション環境をより豊かにするため」となっている。決して印象は悪くないけれど「分かるか?」と尋ねられても「はい!」と即答できるような理由ではない。

 保険会社の人から「障害者の自動車保険料を10パーセント安くするために、障害者は自動車事故を起こしにくいことを示す資料を探してほしい」と依頼を受けたことがある。顧客獲得競争が激しくなり、新たなサービスとして自動車保険料の障害者割引を考えているのだという。保険料を値下げするには、その根拠を大蔵省(現在の財務省)に示す必要がある、ということだった。公安委員会や警視庁をはじめ、四方八方に手を尽くしたもののそのような資料を見付けることはできず、結局、依頼に答えることはできなかった。だが、値引きをするには、これくらい明確な理由が必要ではないか。

 障害者に対する割引は、理由を説明するまでもなく「いいこと」「当然のこと」と考えてしまいがちだ。でも、理由を曖昧にしたまま特別扱いすることは不要な誤解を招く原因になるし、理由のない割引は差別と同じだからだ。
 割引の理由は、大きく分けて二つあると思う。一つは、社会貢献。もう一つは、サービスが不十分な分の値引きだ。前者は福祉的な発想によるもので、後者は市場原理に基づいている。理由さえはっきりとしていれば、どちらでも構わない。

 つい先日「また仮面ライダーショーに連れていって」と息子たちにせがまれながら、インターネット高速接続サービス利用料の障害者割引の話題を目にしてしまった。
「ショーの値段は、本来、小人料金が、大人料金より高くあるべき」という、昨年夏以来の主張が頭をもたげながら、障害者割引の導入をPRする記事を見ながら、割引がどちらの理由によるものなのかが、やはり気になっていた。

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Last Update : 2003/09/27