究極の自己PR術

バリアフリー観察記2003年

究極の自己PR術

 サッカーのJリーグが誕生した1992年当時のスター選手は、カズこと三浦知良(かずよし)選手やディフェンスの要・井原正巳(まさみ)選手だった。ところが現在、Jリーグの顔になっているのが彼らと同期の中山雅史選手であることには興味を引かれる。天才的な能力でスマートに役割をこなすカズや井原選手とは対照的に、中山選手は、ムードメーカーとしての突出したキャラクターとともに、どこまでもボールにくらい付き、体ごと相手ゴールにねじ込んでしまうゴツゴツとした泥臭い個性を持っている。
 その中山選手は、体力的には厳しいはずの35歳を迎える2002年に日韓ワールドカップの代表に選ばれた。このことは、たった一つでも突出した個性を持っていれば、世界トップクラスの舞台に立つことができることを証明している。

 小学生のころ、地元にあるミシンの部品工場を社会見学した。円筒状のボビンという糸巻きをミシンにセットするボビンケースのシェアが世界ナンバーワン。親指の爪ほどの小さな部品だけれど、自分の住んでいる町に世界一という肩書きを持つ会社があることが、なんとも誇らしい気持ちになった。
 どんなことでもいい。これだけはだれにも敗けないというものがあれば、だれでも日本一や世界一を名乗ることができるのだと思った。

 実は、日本一や世界一になることは、かなり簡単なことだ。現在は陸上競技の雑誌編集に携わっているが、仕事場には大学のソフトボール部に所属している学生が半年前からアルバイトに来ている。陸上競技について書かれた原稿の校正や資料集めに日々、精を出している彼女には「日本一陸上競技に詳しいソフトボール選手」という肩書きを付けた。
 このように、現在の自分の立場を第一に考えることで、だれでも無理をせずに、今すぐ日本一や世界一になれる何かを見つけられるはずだ。何でもそろっているデパートや大型スーパーだけではなく、店舗は小さくても魅力的なアンティークや雑貨を並べている店があるように、何か一つに特化して、それが極めて個性的で魅力的であれば、十分に存在価値があるはずだ。

 地元、新潟には、米や日本酒以外にも、日本一を名乗る名産品がいくつかある。その一つに村上市の「北限のお茶」がある。お茶は気温や日照時間によって微妙に味が変化するため、どこでも生産できるというわけではない。村上市は国内でお茶を生産している北限で、その味は、甘味が強いのが特徴だ。

「北限のお茶」の存在は、自分の個性をいかに魅力的にPRするか、そのセンスの大切さを再認識させてくれる。なぜなら、北限のお茶は、日本一生産に適さない環境で生産されているお茶にほかならないからだ。自らのハンディを個性として名産品にしてしまったセンスは天才的、究極の自己PR術といえる。

 結局、何がプラスで何がマイナスかといったことは、その表現方法によってどちらにでも変えることができる。要は、自分の特徴を上手にPRすることができれば、だれでも日本一、世界一になることができるのだ。そのためには、自分のことをよく知っておく必要がある。他人と自分を比較してしまっていることに気付くたびに、自分について関心を持つことが、魅力的な存在になるための第一歩だと、言い聞かせている。

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Last Update : 2003/12/13