ナンバーワンとオンリーワン

バリアフリー観察記2002年

ナンバーワンとオンリーワン

 つかまり立ちができるようになったり「パパ」「ママ」と言えるようになったり、箸を使えるようになったり、自転車をこげるようになったり、お漏らしをしなくなったり……。子どものころには、ちょっとした成長で関心を持ってもらうことができる。ところが大人になると、他人との比較でしか認められる機会がなくなってくる。競争に勝つことが求められるようになるわけだ。身長が伸びた、体重が増えたといっては息子たちの頭をなでてやりながら、何とも複雑な心境だ。

「他人との競争に勝つ」という表現を、ここでは「他人より魅力がある」と言い換えようと思う。性格、言葉遣い、雰囲気、語学、マナー……。魅力の要素は何でも構わない。リンゴの皮むきが上手い、電話の対応が丁寧、仕事の要領がいい、ユーモアがある、正義感が強い、といったことでもOKだ。

 人との違いを創り出すには、二つの方法がある。何人もの中で秀でる方法と、人がやっていないことで草分け的な存在になる方法だ。「ナンバーワン」になるのか「オンリーワン」を目指すのか、ということだ。目指すものは違っても、どちらも一番であることに違いはない。

 高橋尚子選手を育てた小出義雄監督は、高橋選手以外に有森裕子選手や鈴木博美選手といったオリンピックや世界選手権のメダリストを育てている。小出監督といえば「女子マラソン」というイメージだけれど、そこには小出監督の計算があった。
「男子だって教えることはできる。でも、歴史の浅い女子マラソンのほうが金メダルを獲りやすい」
 小出監督の偉業は多くの人に認められたのだと思っていたけれど、実は、戦略によって「認めさせた」と言うほうが正確だ。
 ここでの教訓は「自分の魅力は自分の戦略によって創り出すもの」ということだろうか。

 最近は、ナンバーワンを目指すことよりオンリーワンであることに魅力を感じるようになった。国語や英語のテストで一番になることよりも、目の前の出来事を独自の視点で魅力的に伝えられる表現力を身に付けたいと思う。自分が見たものを表現することには、自分だけが自由に決めることができる快感がある。

 自分という存在そのものがオンリーワンであることを考えれば、ナンバーワンになることはできなくても、だれだってオンリーワンになることはできる。それを魅力的に見せることは、自分にしかできないはずだ。そう考えたら、人に関心を持ってもらうことを考える前に、まずは、自分で自分に関心を持ちたいと思えてくる。

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Last Update : 2003/02/24