経験の共有

バリアフリー観察記2002年

経験の共有

 バリアフリー観察を楽しむようになって、無関係に思えていたバラバラの経験がつながりを持つようになってきた。パズルのパーツが一つずつつながっていき、面として広がりを持つようになった。このことが『観察記』を1冊にまとめる動機になった。自分と同じことを感じたり考えたりしてもらえる人が、ほかにもいるのではないかと考えたからだ。自分が見付けた接点を共有することができれば、バリアフリーという世界をよりたくさんの人に理解してもらえるのではないか――。そう考えたら、作文という個人的な趣味が、広がりのあるものにも思えてきた。

 異文化という言葉は、自分の世界が広がりそうな、魅力的な響きがする。語学学校に通ったり、ボランティアに関心を持ったりする人が増えていると聞けば、未知なるものに関心を持つ人が増えていることを実感する。
 私にとっての異文化は女性であったり外国人であったり、若者であったりする。要は「自分が知らない世界」はすべて異文化だ。

 そんな中で特に興味を持っているのが「バリアフリー」なわけだけれど、その面白さに、正直、驚いている。まったく無関係に思っていた世界が、実は自分といくつもの共通点がある。しかも、それぞれがだれにとっても身近でありながら、まだほとんどの人がそのことには気付いていない。目の前に山菜やキノコがたくさん生えているのに、だれにも気付かれずに自分だけが美味しい思いをしている――そんな密やかな楽しみがある。これだけ情報が溢れている中で、新しい大陸を発見してしまったような驚きさえ感じている。

 バリアフリーへの関心は、初めは興味本位でもいいと思っている。物事の始まりはそれが自然だ。面白いからとか、興味があるからといった気持ちが、関心を持続させる。
 カッコイイ選手がいるからサッカーを観るようになった、という知人がいる。彼女の場合、サッカーの試合を観ることはついでみたいなものだったけれど、そのうちにサッカーの楽しさが分かるようになって、熱心に試合を観戦するようになった。今となっては、ちょっとした評論家だ。いくら頭が良くなるからといって毎日魚を食べることはできないし、漢字を覚えるために本を読みなさいと言われても、読書が好きにはならないものだ。

 バリアフリーへの取り組みは現在、二極に分かれている。一つは、法律を整備する国レベルのものであり、もう一つは、有志による個人レベルのものだ。国レベルの取り組みは最近になって加速しているけれど、個人レベルのものは、それこそバリアフリーなどという言葉が生まれるずっと前から続けられている。にもかかわらず、その活動を横のつながりへと広げ、日本全体のムーブメントにしていく力は、残念ながらそれほど強くない。
 でも、バリアフリーが単に物理的な問題ではなく、本質的には人の心が強く関係していることを考えると、個人レベルの活動は、国による取り組み以上に重要だ。法律はバリアフリーな形を実現させる絶大な力を持っているものの、人の心を強制することはできないからだ。ルールを作る人たちもまた、一人ひとりは個人でもある。

 この『バリアフリー観察記』は、まだまだ未完成だ。正直なところ、自分一人では完成させることができないと感じている。なぜなら、ここにまとめたことは「私の身のまわり」というごく限られた、あまりにも狭い範囲のことだけでしかない。その意味ではほんの「点」でしかなく、理解者を増やすなどと言うことがはばかられるほどに貧弱だ。
 ところが、自分以外の人たちがそれぞれにバリアフリーとの接点を見付け、それを再び他の人たちと共有することができれば話は別だ。点は線、そして面へと大きく広がりを持っていく。日本中の人たちが見付けた一つひとつの点がたくさんの人に共有されることで、バリアフリーとの接点は広がりをもち、より太く強いものになっていく。この思いは、本書をまとめる動機とまったく同じものだ。情報や経験といったものは、二次利用、三次利用されることでその価値を増していく。

 この本をまとめるに当たり、一つのホームページを開設した。そこには、皆さんのバリアフリー観察記を投稿していただくコーナーを設けている。投稿されたものは瞬時に公開され、だれでも自由に閲覧できる。投稿の内容は、新たな発見でもいいし失敗談でもいい。発見や経験を共有できれば、バリアフリーへの理解は共有したすべての人の間で深まることになるし、失敗の経験を共有できれば、今後、同じような失敗を減らすことができる。私自身いくつかの失敗を経験したけれど、それがだれかに生かされると思えば、失敗を恐れる気持ちも和らぐというものだ。

 本書とこのホームページが、個人レベルの活動をムーブメントとして広げることに役立てば本当にうれしいと思う。

◎ホームページ「バリアフリー観察記」
http://www.ibunka.net/

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Last Update : 2003/02/24