共用品界の司令塔

バリアフリー観察記2002年

共用品界の司令塔

 より多くの人が使えるように配慮した製品の一つひとつを見てみると、実にシンプルなアイデアに感心させられる。
 例えば、オセロゲーム。通常は手触りだけではコマの白と黒は分からないけれど、黒い面に同心円状の凸模様を付けて、指の感触で識別できるようにしてある。また、コマを整然と並べることができるように、立体的な格子で升目が分けられている。こうすることで、見えない人も一緒にゲームを楽しむことができるし、小さな子どもでもコマをうまく並べることができる。
 息子のオムツを交換するとき、片手で両足を持ち上げたまま、もう一方の手で軽く押すだけでフタが開く「おしりふき」はとても使いやすかった。大きなキャップを採用して片手で開け閉めできるハミガキもある。両手が使える自分にとってはねじタイプでも片手でOKのタイプでも大差はないけれど、手が不自由な人にとっては片手でOKのほうが重宝するだろうし、同じことが片手でできるなら、そのほうがスマートだ。

 このように、できるだけたくさんの人が使えるように考えられた製品は「共用品」と呼ばれている。
 手品を見ていると、その不思議さにまずは驚き、タネあかしをされると意外なほど簡単な仕かけに再び驚かされることがある。見ている人の意識や注意を巧みにそらしたり、錯覚を利用したりと、そのカラクリが単純であればあるほど、うまくだまされた自分自身がおかしく思えてくる。
 共用品に施されたアイデアも、これと似ている。小さな切り込みを入れたりギザギザ模様を付けたりと、実にシンプルなことが使い心地を分けている。それだけに、意識しなければ気付かずにいることが多い。

 製品が発売されたり、建物が建設されたりと、日々、新しいものが誕生している。障害者や高齢者、そして外国人も使うということに気付かずにそれらを作れば次々と不便なものが増えてしまうけれど、反対に、より多くの人が使えるようにと配慮しながら作れば、日本はどんどん便利になっていく。それだけに、物作りの現場に携わる人のポジションは重要だ。
 物を作ることは、企業にしかできない。消費者は「こんな製品があればいい」「こんな使いにくさを解消してほしい」といった要望を持ってはいるけれど、それを製品に取り入れて形にし、世の中に流通させることができるのは、やはりメーカーだ。

 メーカーの担当者は、言ってみれば日本サッカーの司令塔・中田英寿(ひでとし)選手のようなものだ。消費者のニーズを的確につかみ、マジシャンのように柔軟な発想でアイデアを繰り出し、市場に素晴らしい製品を供給していく。その姿は、フォワードに的確にボールを送り出してゲームを組み立てる中田選手そのものだ。

 何かを作り出すことは、実に想像力を刺激される作業だと思う。世の中がとても快適になって、ちょっとしたことでは便利さや快適さを実感することができなくなっているけれど、ほんのちょっとしたことで日常の生活が変わるほどの影響を受けている人たちがいる。そのことに気付いた人たちが作り出す製品に普遍性があることは、さりげなく身のまわりに存在している数々の製品が証明している。

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Last Update : 2003/02/24