待ち時間

バリアフリー観察記2002年

待ち時間

 健康診断を受けている病院のエレベーターは、待ち時間がとても長く感じる。せいぜい8階程度のビルの中にあるのだけれど、フロアには、エレベーターが現在何階にあるのかを示す表示がないのだ。おかげで、エレベーターが上に向かっているのか、1階に降りてきているのかが分からない。わずか1、2分のことでありながら、待ち時間が分からずにただ待っているのは、結構しんどい。健康診断は年に一度のことだけれど、この病院に勤めている人は、毎日こんな思いをしているのだろうか。

 いつくるとも知れないものを待っているときの気持ちは、待ち合わせをしているとよく分かる。約束の時間を過ぎても相手がこないときには「道でも混んでいるのかな」とは思っても、5分、10分と経つうちに、場所を間違えたのではないか、帰ってしまったのではないかと気がもめてくる。
 ところが、待つ側のそんな気持ちを理解してはいるものの、いざ遅れる立場になったときにそれほどには気がもめないのは、ヒト自体がもともとわがままなのか、私自身が特別にわがままなのか……。

 銀行や郵便局の窓口は、昼休みにはビジネスマンやOLでごった返している。こんなとき、自分が呼ばれるまでの時間が分からなければ、その時間は相当に長く感じる。あと15分で会社にもどらなくてはいけないのにと、どんどん不安が募ってくる。しかも、いつ呼ばれるだろうと耳をすませ、心構えをし続けるのは結構疲れるものだ。
 最近は、順番が分かるカードを配る機械を設置するところが増えている。受け付けカウンターには手続きをしている人の番号が表示されるため、あと何人で自分が呼ばれるかが一目瞭然。待ち時間を予想して、手洗いに立つこともできるし、自分の順番が過ぎてしまっても、現在の受付番号を見ればそのことをすぐに知ることができる。
 このアイデアは、窓口担当者の表情や口の動きを観察し続けていた聴覚障害者を、臨戦態勢から解放したに違いない。大きな病院では窓口に薬が出ていることを表示する掲示板を採用しているところがあるけれど、高齢者にも歓迎されているようだ。
 こうした工夫があらゆる窓口で取り入れられれば、待つ側のイライラも減り、窓口業務もスムーズにいくことだろう。

 街を歩いていると、信号が青になるまでの時間を逆三角形の電気式のメモリの減り具合で知らせる歩行者用信号機を見かけることがある。この「電気式砂時計」付き信号機も、待ち時間を目に見える形で表した傑作だ。見えない人に配慮して「信号が青に変わりました」とか「信号が赤に変わります」という音声をスピーカーから流しているものまである。そこに「あと20秒で青に変わります」といった言葉が加われば、見えない人も、待ち時間を「聴く」ことができるようになる。

「待ち時間」という姿形のないものを見えるようにした人は、かなり高度な感性と発想の持ち主に違いない。番号札を配ったり電気式砂時計を付けたりと、その仕組み自体はとても単純。でも、街の中でこうした工夫に気付くたび、それを実現させるまでに、利用者の使い勝手や気持ちについてあれこれと思いを馳せ、アイデアを形にしていった人たちの姿が浮かんできて、思わずうれしくなってしまう。

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Last Update : 2003/02/24