ごめんね、ニッポン

バリアフリー観察記2002年

ごめんね、ニッポン

 日本は、2005年までに世界最先端のIT(情報技術)国家になる。各家庭がインターネットにつながって、高速でデータをやり取りできる環境が整う。しかも、24時間つなぎっ放しで、低価格という条件付き。

 政府が掲げるこの目標が実現すれば、家にいながら引っ越しの手続きをしたり婚姻届を提出したりパスポートを申請したりといった行政手続きを、時間を気にすることなく24時間365日、いつでもできるようになる。ベッドで寝たまま医師の診察を受けられる日がくることも、遠い先のことではなくなるだろう。映像などの大きなデータが瞬時に送受信できるとなれば、ネット経由でレンタルビデオを借りたり、英会話スクールの対面授業を受けたり、投資先の株主総会に参加したりすることが可能になったりする。すでに、インターネットを利用した在宅学習で、アメリカの高校を卒業できる学校が誕生しており「時空を越える」なんてことが、夢物語ではなくなっている。
 計画ができた2001年にはインターネット普及率で世界の16番目だった日本が、わずか4年で世界最先端の環境を整えると聞けば心強い。と同時に「短期間で世界最先端のバリアフリー国家にだってなれるのでは」と思えてくる。すると案の定、すでに準備が進められていた。

 2000年に施行された交通バリアフリー法では駅やバス停、空港などにはエレベーターやエスカレーター、点字ブロックや車いす対応のトイレなどを設置することが決められていて、2010年までに、すべてのバスの5台に1台以上を車高が低くて乗り降りしやすい低床バス(ノンステップバス)にするといったことも決められていた。
「線路は続くよ、どこまでも」というけれど、交通機関のバリアフリー化は、日本全体のバリアフリー化と言っていい。一人では階段を上り下りできなかったり電車やバスに乗り降りできなかった人たちが買い物をしたり旅行をしたりするようになれば、周辺の道路や公共施設、商業施設の対応が進むことになる。

 インターネットの普及率は1位スウェーデン、2位アメリカ、3位ノルウェー、4位アイスランドと続いている。北欧勢が上位を独占しているのは何とも興味深い点だ。何しろ北欧といえば「胎児から墓場まで」をスローガンに掲げるスウェーデンに代表される福祉先進地域。ネット社会と福祉国家の共通点は、つまるところ、徹底した暮らしやすさの追究なのだと思えてくる。

 ITにしてもバリアフリーにしても後進国だと思っていた日本が短期間で世界の最先端に立てると知って、国際競争力などというものが気になりだした。いくつか拾い上げてみると、日本の意外な姿が浮かび上がってくる。経済力は世界第2位、人口は第9位、人口密度は第4位、国土の広さは上から数えて60番目くらい。これが日本の概要だ。1億2700万という人口が世界的に見てかなり多いというのは意外だった。しかも、人口密度が第4位とは。

 これらの数字をよくよく見れば、日本の面積はドイツ、イギリス、イタリアといった国よりも広く、人口も多かった。地球上には約200の国があるけれど「極東の小国」といったイメージと現実は随分と違っている。どうやら私は、日本という国を見くびっていたようだ。ごめんね、ニッポン。

 会社の財産は「人、物、金」――日本という国を企業に例えれば人(人口)、物(技術)、金(経済力)はいずれも世界のトップクラスだ。どういうわけか染み付いてしまった「極東の小国」なんてイメージを持っているとついつい卑屈になるけれど、人材と経済力がギュッと凝縮された国と考えたら、むしろ自信がわいてくる。
 超大国アメリカでさえ、国土のコンパクトさでは絶対に日本にはかなわない。何しろ、面積が25分の1しかない日本は、ITやバリアフリーの環境をアメリカより25倍も効率的に整備できるのだ。

 病は気からと言うけれど、考え方一つで、見え方が変わってくることは、意外にたくさんあるのではないだろうか。

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Last Update : 2003/02/24