バリアフリーに興味を持ち始めたころ、お年寄りと障害者は共通点が多いと感じた。年を取ればだれでも足が不自由になり、見えにくくなり、聞こえにくくなる。だから、障害はだれにでも関係する問題だという説明は、とても理解しやすかった。
大まかに言えばその考えは今も変わっていない。でも実際には、決定的に違っていることもある。高齢者は若いころに就職や結婚、社会参加を通して自己実現の機会を持っているけれど、障害者の中には、その障害を理由にこれらの機会を持てずにいる若い人たちがたくさんいる。
俗にいう障害者は年齢的にも若く、体力もある。そこで、彼らの自立が重大なテーマになる。つまり、障害者本人が話題の中心だ。ところが、高齢者問題になると様子が違う。長寿世界一といったほのぼのとした話題では高齢者本人が主役になるけれど、深刻な問題として伝えられるニュースの主人公は、家族やヘルパーをはじめ、関係する人たちであることが多い。介護の話題は家族が主役だし、年金問題の主役は、このままでは受け取れなくなるかもしれない若い人たちだったりする。
精神分裂病という名称が統合失調症に変わったのは2002年の春だった(Link)。「精神がばらばらに分裂している印象を与えて差別や偏見を生む」という患者や家族からの声を受けて、医師の団体が病名を変更したのだ。「精神が分裂」と聞けば人格がばらばらに壊れている感じがするけれど、実際には「暑い」という言葉から「太陽」が連想できないといった「連想の分裂」なのだと聞けば、名称が生む誤解を実感する。
この少し前にも、似たような話があった。痴ほう症のお年寄りをかかえる家族が結成した「呆け老人をかかえる家族の会」が「日本アルツハイマー病協会」へと名称を変更しようとしたところ、会員から反対の声が相次いだという内容だった。新聞では「心のよりどころだった会が別組織になるようだ」「ぼけと家族という言葉に愛着があった」「人に言えぬ介護の苦労の感じがなくなる」といった声が紹介されいて、結局、会の名前は残されることになったという。ホームページを覗いたら、両方が併記されている(Link)。
名称変更についての二つのニュースは、障害者とお年寄りの違いが端的に表れているようで興味深い。
高齢者が増えてきたことで物理的なバリアフリーが進み、同時に、障害を持つ人たちの不便も解消されつつある。でも、高齢者と障害者には違いがあるという意識を持ちながら日常を観察すると、バリアフリーの見え方が随分と違ってくる。
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