快適に生き抜く術

バリアフリー観察記2003年以降

快適に生き抜く術

 暗証番号が、また一つ増えた。クレジットカードを申し込み、電話のプッシュボタンで4ケタの数字を指定する。だが、何度やってもうまくいかない。オペレーターの方に電話が転送されると「電話番号の下4ケタや誕生日など、類推されやすいものは機械が自動的にはじいてしまうんです」と説明してくれた。結局、これまで一度も使ったことがない新しい数字の組み合わせを入力し、ようやく手続きが完了した。

 自宅の車のナンバーさえ覚えておらず、郵便番号が7ケタに増えただけで苦戦した身としては、意味を持たない数字やアルファベットの羅列は実にやっかりな代物だ。
 少し前なら電話番号と自宅の郵便番号くらいで事足りていたものが、マンションの電子ロック、電子メールの送受信、インターネットを使った買い物やお金の振り込みなど、暗証番号やパスワードを入力しなければ使えないものがいつの間にか増えてきた。しかも、安全のためにはそれらを定期的に変更する必要があるという。
 生活に便利さが一つ加わると、その都度、新たな番号や記号が自分に割り当てられる。それはまるで、家電製品を買うたびに増えていくリモコンのようだ。

 生活を快適にするために便利さを追究しているのに、なぜか毎日が慌ただしく、余裕を失っていると感じることがある。仕事でパソコンを使うようになって、それまでは手作業で何日もかけて行っていた数字の処理が、ほんの一瞬でできるようになった。その一方で、一人で担当する情報の件数が大幅に増え、確認作業に時間を取られるようになった。パソコンが人間の1000倍のスピードで情報を処理しても、人間の確認作業のスピードは以前と変わらないことが原因だ。
 結局のところ、便利さや効率を追究することが快適な生活につながるかどうかは、全く別の問題だ。だが、便利さや効率の追究をやめることはもはや不可能だ。洗濯物を手洗いしていた時代の情緒を懐かしんでも、今更、洗濯機のない生活にもどることなどできないように、これが時代の趨勢というものだ。

 1月29日には「公的個人認証サービス」が全国の市町村窓口で始まった(Link)。これを利用すればインターネット上での本人確認が可能になり、住民票を取得したり児童手当を申請したり、納税申告やパスポート申請なども、自宅にいながら時間を気にせず行えるようになる。これにより、新しい便利が生活に加わることになる。

 祖父母が現役だった時代、快適な生活を送るためにはご近所との密な人間関係を良好に保つ術が必要だった。一方、インターネットやパソコンが生活の中に入り込んでくるこれからは、暗証番号やパスワードを使い、自分が自分であることを日々証明しながら見ず知らずの人たちとその場限りのコミュニケーションをとる時代になる。
「効率優先社会」が、快適な生活を勝手に連れてきてくれるわけではないことを考えると、以前とは違った生活の術を自力で身に付けることが必要だ。さもなければ、機械化やスピード化の波にのみ込まれ、かえって日常が慌ただしく、余裕を失ってしまうことにもなりかねない。

トップへLink

Last Update : 2004/01/31