共同作業の原則

バリアフリー観察記2003年

共同作業の原則

 今年2月19日には、スキーヤーの三浦敬三さんがヨーロッパアルプスの最高峰モンブランの大氷河をスキーで滑り降りたことが、話題を呼んだ(Link)。敬三さんさんはプロスキーヤーの三浦雄一郎さんの父で、御年99歳。この冒険には、息子の雄一郎さんとともに、孫の雄大さんが帯同し、危険地帯は雄大さんが担いでクリアしたという。

 盲人マラソンの男子の世界記録は2時間36分33秒だが、彼らの目としてガイドを務めるランナーは、フルマラソンで2時間10分台の力がなければ到底務まらない。視覚障害をもつランナーとガイドは、丸く結んだロープを持って互いをつなぐ。ランナーにはそれぞれ自分のペースやリズムがあるけれど、ガイドには常に相手のリズムを優先して走り続けることが求められるために、体力の消耗が激しいのだ。

 ボールを蹴ったり、自転車を漕いだり、真上に飛び上がったり……。スポーツをするときにはいくつもの関節が同時に動くけれど、このときに発揮される力の大きさは、力が一番弱い関節の影響を受けることが知られている。力が強い関節を優先してしまったら、弱い関節が壊れてしまうからだ。
 物事は、力がない人に合わせて行われという原則は、単に登山や盲人マラソンのルールだけではなく、あらゆる共同作業に共通していることが理解できる。

 世の中には障害がある人とない人がいて、バリアフリーな街づくりは、両者の協力によって実現していく共同作業だ。それだけに、障害者側の役割はとても重要だと思う。
 街づくりを登山に例えれば、経験を豊富に積んでいるエキスパートの人たちが、散策やハイキングを通じて山登りの楽しさや素晴らしさを一般の人々に伝えていく作業が必要だと思う。その中では、エキスパートの人たちにしてみたら簡単すぎるほど初歩的なことにさえも時間を割かなくてはいけないこともあるだろう。だが、それが共同作業の原則だ。

 飲みにくい薬も、甘くすれば子どもでも飲むことができる。薬自体の効能からすれば甘いことは無駄なことだけれど、苦くて飲めないよりはずっといい。
 バリアフリーというテーマが一握りの人による冒険ではなく、街に暮らすすべて人に関係する日常的なテーマであると考えたら、絶対的多数を占めている人たちを仲間にしていくことは、問題解決のための絶対条件だ。
 底辺が広いほど、山の頂はより高くなる。

トップへLink

Last Update : 2003/04/15